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菖蒲 <2009/ポーランド> ★★★★

tatarak.jpg
菖蒲/Sweet Rush/Tatarak
2009/85min/ポーランド
ドラマ
監督:アンジェイ・ワイダ「カティンの森」「大理石の男
原作:イワシュキェーヴィッチ同名短篇小説
出演:クリスティナ・ヤンダ尋問」「デカローグ第2話」「大理石の男」、Pawel Szajda、Roma Gasiorowska
受賞:第59回ベルリン国際映画祭 アルフレード・バウアー賞
IMDb評価:6.6/10

映像美 ★★★★
哲学度 ★★★
衝撃度 ★
社会度 ★

カティンの森」に続くワイダ監督最新作


*****第59回 ベルリン国際映画祭受賞作*****  
金熊賞: 「悲しみのミルク」 - クラウディア・ローサ監督
銀熊賞:
審査員グランプリ:「Gigante」 - アドリアン・ビニエツ監督、「Alle Anderen」 - マレン・エイド監督
監督賞: アスガー・ファルハディ - 「彼女が消えた浜辺」
女優賞: ビルギット・ミニヒマイアー - 「Alle Anderen
男優賞: ソティギ・クヤテ - 「London River」
脚本賞: アレサンドロ・キャモン、オーレン・ムーヴァーマン - 「The Messenger」
芸術貢献賞: 「Katalin Varga
アルフレード・バウアー賞:「菖蒲(本作)」 - アンジェイ・ワイダ監督、「Gigante」 - アドリアン・ビニエツ監督
***************************

tatarak2.jpg小さな町医者夫人マルタは不治の病に侵されているが、本人は告知を受けていない。ワルシャワ蜂起で亡くした息子を未だ思い続けるある日、生きていれば同じ世代の青年ボグシに出会う。次第に魅了され、川辺で逢引きをするが…。

本作は、原作小説の映画化「菖蒲」と監督自身も登場するそのメイキングシーン、そして女優クリスティナ・ヤンダの私生活のモノローグ(独白)の多重構成となっており、一見チグハグに思えるが見事に調和している。一番面白かったのは川辺でのメイキングシーンだったが、心に響いたのはモノローグだった。

女優クリスティナ・ヤンダの夫で撮影カメラマンのエドワード・クロシンスキーはワイダ監督とも馴染みが深い。ワイダ監督「約束の土地 Ziemia obiecana(1974)」、トリアー監督「Europa(1991)」、 キェシロフスキ監督「トリコロール 白の愛(1994)」、ロルフ・シューベル監督「暗い日曜日(1999)」などの撮影を担当した。2008年に病気で亡くなり、本作の撮影が延期になったという記事を以前どこかで読んだが、死をテーマとした本作でぜひとも夫のことを語りたいというヤンダの願いから、モノローグ部分を追加したという。台詞は彼女自身が書き上げ、部屋の中で延々と闘病生活から死まで語られる。英語字幕をひたすら目で追うのは正直つらかったが、3つの死の中で一番説得力があった。

tatarak1.jpgワルシャワ蜂起で亡くした息子。不治の病に侵されている夫人。そしてヤンダの夫。生きるということと表裏一体である死の影を漂わせながら、静かに綴られていく。“映画”部分は暖色を主体とした色調で悲壮感はなく、菖蒲が咲く川辺でゆらゆらと揺らぐ水面の映像が印象的。トキメイテいる時の女はほんとに美しい。写真の2人から死の文字は見えてこない。

一方、“モノローグ”部分はベッドと椅子しか置いていない殺風景な部屋でモノトーン。ポスターでも使われている。窓から差し込む光からは温かみを感じるが、現実をガツンと付きつけられたような衝撃を受けた。

tatarak3.jpgカティンの森」のようなタブー視された戦争ものの後に、本作のような文芸作品を撮るにはどう気持ちを入れ替えているのか。映画「菖蒲」をどんな心境で作ったのだろうか、という点にも興味があった。クリスティナ・ヤンダ主演でただの文芸作品に終わるわけがないが、彼女のモノローグがなかったら凡作で終わっていたように感じる。
現在85歳のワイダ監督。ワイダ監督作品はまだ数本しか観ていないが、本作は全く違う印象を受けた。かつてのような社会に刃向かう力強さはなくなり、勢いが衰え、丸くなったというか、監督自身役目を終え、穏やかに死を見つめ始めているのではないか。そんな心の内を覗いてしまったような気持ちにさえなった。
EUフィルムデイズで上映され、配給はまだついてないようだ。

<鑑賞>英語字幕 2011/4/11
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大理石の男 <1977/ポーランド> ★★★

dairiseki.jpg
Czlowiek z marmuru/ Mans of Marble/ L'homme de Marbre
1977/165min/ポーランド
監督:アンジェイ・ワイダ
出演:イエジ・ラジヴィオヴィッチ、クリスティナ・ヤンダ尋問」「デカローグ第2話
受賞:カンヌ映画祭 国際批評家賞
IMDb評価:8.0/10

難解度 ★★★
隠喩度 ★★★★★
社会度 ★★★★

<あらすじ>
映画学校の生徒アグニェシカは、1950年代の労働英雄の姿をテーマに卒業映画を作ろうとしていた。そんな中、博物館の倉庫でかつての労働英雄ビルクートの彫像を発見し、ビルクートの当時の状況やその後を知ろうと関係者への聞き込みを行うことで物語が展開する。

<レビュー>
クリスティナ・ヤンダのデビュー作。回想シーンが多いので出番は多くはないが、デビュー作にしてすごい演技力、存在感を放つ。

社会主義の理想そのもののはずだったビルクート。彼のドキュメンタリー映画を作ろうとしてたアグニェシカは当時の彼を知る者へ聞き込みを開始する。英雄としてもてはやされる一方で妬む人も多くおり、押し潰されていく悲劇が関係者への聞き込みで明らかになっていく。しかし大学や政府は過去が明らかになることを恐れ、撮影中止、機材の貸し出し禁止の処分を下す。
映像は50年代当時のフィルムと現在のフィルムが交互に流される。当時のポーランドの大統領とスターリンの写真が並んでいる映像もある。

理想ともてはやされ、理想に潰されたビルクート。監督の真意は、背景となるスターリニズム全盛時代への批判であって、一体国の掲げる理想とは何なのか?を皮肉たっぷりに綴っている。「連帯」結成前の作品であるにも関わらず、エンディングシーンの舞台がレーニンのグダニスク造船所前というのも意味ありげである。

それにしても3時間とは長い!何回途中挫折したことか。歴史の裏の事実を描いたのであろう本作は自分の勉強不足を再認識させられるだけだった。国際的評価は驚くほど高い。学生時代、歴史を勉強しなかったことが悔やまれる。もう少し歴史に興味が出てきたら観直してみよう。

政府の厳しい検閲でエンディングの削除を余儀なくされた本作。削除分はわざわざ続編「鉄の男」に収録させたとか。おそらく削除分が一番見応えがあるのでしょう。

<鑑賞> 英語字幕  2010/11/31
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デカローグ第2話 <1989/ポーランド> ★★★★☆ 編集あり

Dekalog, dwa
1989/57min/ポーランド
監督:クシシュトフ・キェシロフスキ監督
脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ、クシシュトフ・ピェシェヴィチ
出演:クリスティナ・ヤンダ尋問
IMDB評価:7.9/10、9.2/10(全体)

2条「あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。」をテーマとした第2話「ある選択に関する物語」について。

ワルシャワの病院に勤める医師は、団地のとある階に住む。ある朝、上の階に住んでいる女性が訪ねてくる。医師は夫の主治医で、夫の回復の可能性を聞きたかったのだ。その理由は、夫の親友との間の子どもを身籠り、夫が生き延びるようなら中絶するし、もう長くないのなら産もうと考えていたからだ。年齢的にもこれが最後の出産のチャンスだ。しかし、医師はわからないと言う。妻と娘を亡くしているので、死に対しては人よりも特別な思いがあるのだ。
dekalog21.jpgdekalog22.jpg
不倫しているとはいえ、まだ愛する夫の回復を願う反面、死んでくれれば赤ちゃんを産めるのに、と葛藤の中での彼女の決断は中絶だった。夫の主治医にその旨を伝えると、医師はついに口を開いた。夫はもうすぐ死ぬのだと。だから、中絶はするなと。しかし、これは阻止さえるための医師のウソだったのだ。そうとも知らずに産むことを決意する。

医師の判断に委ねた結果は果たして正しかったのか?医師のウソを知った時に判断を悔いることになるのか?それとも、それでも良かったと思うのか?もし逆の選択をしていたら、どうなっていたのだろうか?十戒的に考えると正しい決断をしたかのようにも思えるが、結果的には果たしてどちらが幸せだったのだろうか?この話は第8話の倫理性を問う講義の中でも引用されている。
dekalog23.jpg
ジュースの中で溺れたハエがもがき苦しみ、必死でストローを這い上がろうとするシーンが印象的。人間への教訓だ。甘い誘惑に負けると後悔することになると。

<鑑賞> 英語字幕 2010/11/3

↓以下、ネタバレします。

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尋問 <1989/ポーランド> ★★★★★

interrogation.jpg
Przesluchanie /Interrogation
1982(公開1989)/118min/ポーランド
監督/脚本: リシャルト・ブガイスキ
製作: タデウシ・ドレヴァノ
製作総指揮: アンジェイ・ワイダ(ノンクレジット)
出演:クリスティナ・ヤンダデカローグ第2話」、アダム・フェレンツィヤヌシュ・ガヨストリコロール 白の愛」、アニエスカ・ホランドオルジード・ルカセウィッツ
受賞:1990 カンヌ映画祭 主演女優賞
IMDb評価:8.3/10

芸術度 ★★
社会度 ★★★★★
衝撃度 ★★★★★
感動度 ★★★
催涙度 ★
演技力 ★★★★★

<あらすじ>
キャバレー歌手アントニーナは、身に覚えのない容疑で投獄。公安から執拗な尋問を受け、それは恐るべき拷問へと変わる。彼らは彼女に知人を陥れる嘘の証言を強要。頑としてそれを受け入れない彼女に地獄の日々が7年もの間続く…。

<鑑賞> 英語字幕 2010/11/4

<レビュー>
たまたま出くわした映画が、いい意味でとんでもない作品だった。ポーランド映画数本しか観たことがなくても見たことのある顔ぶれが名を連ねていた。主人公アントニーナと獄中仲間であった女性を驚くべきアニエスカ・ホランドが演じていた。クシシュトフ・キェシロフスキ監督の助手や監督としての彼女しか知らなかったが、かなりの存在感がある。何よりも主人公のクリスティナ・ヤンダの体を張った迫真の演技に圧倒させられる。「デカローグ第2話」とは全く違う役柄で同一人物だとは気付かなかった。カンヌ映画祭で主演女優賞を受賞したのにもうなずける。惜しくもパルムドールは逃してしまった。

本作は1982年に完成していたが、1981年の戒厳令施行によりポーランド国内で公開・輸出が禁止されていた。1983年7月 戒厳令全面解除されたが、8年後の1990年、カンヌにて公式初上映された。

キャバレー歌手アントニーナは仕事後、ファンだという男性2人と飲みに行く。ものすごいピッチで飲み続けたアントニーナは見事に酔い潰れてしまった。そして、翌朝目覚めると、そこは牢獄であった。一緒に飲んでいた男性2人が連れてきたのだ。

50年代のスターリン体制下という時代背景である。身に覚えのない容疑でも不当に逮捕されてしまうとんでもない時代だ。そんな時代をたくましく生きた人々の苦痛は計り知れない。

アントニーナもなぜ投獄されたのか全くわからず尋ねるが、逆に過去に関係を持った男性の名前を洗いざらい全て言わされる。その中の一人であるオルツカは国家反逆罪の容疑をかけられており、たった一度関係を持ったアントニーナを共犯と仕立てようとしていたのだ。国家反逆罪を立証する自白をさせ、都合良く仕立てられた調書にサインをさせようとする。「国家の安全のためなら友達をも犠牲にしなければならない場合もある。自白さえすれば、罪は軽くなる。」とまでいう取調官。無実だということは承知しているということだろう。
interrogation2.jpginterrogation3.jpginterrogation1.jpg
同じく投獄されている者たちもやはり不当逮捕であった。共産党のある者は、党の命令でアメリカ人を国家施設に案内してしまったことが、諜報活動に手を貸したことになるという理由であった。自白をさせるために、人権を無視した暴力的な拷問が繰り返し繰り返し行われる。犬のように扱われたり、独房で水死させられそうになったり、ピストルで頭をぶち抜かれた死体を見せられ、次はお前だと脅かされたり、よく次から次へと思いつくものだと関心してしまうほどあらゆる手段で自白、署名を強要するのだ。拷問に耐えられず自白してしまう者も少なくないであろう。裏切り、裏切られ、皆人間性を失っていくのだ。しかし、アントニーナは決して人間の尊厳を見失うことはなく賢明に立ち向かい、無実であることを訴え続けた。

耐え抜きながらアントニーナは毎日夫のことを思っていた。ついに面会に来てくれたのだが、別れを告げられてしまった。関係を持った男性遍歴を知ってしまった以上、離婚せざるを得なくなってしまったのだ。生きがいを失ってしまったアントニーナは手首を噛みきって自殺を図ってしまう。出血多量で亡くなったかと思ったが、どうにか一命はとりとめ、病室房に送られる。そこへかつての取調官タデウシュがお見舞いにやってくる。彼はアントニーナの意思の強さに魅了されており、手を挙げることはなかった人である。クリスマスだったその日に2人は結ばれたのであった。やがて獄中出産し、子供は孤児院に預けられる。

↓以下、ネタバレします。

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