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(未) A Man's Fear of God (原題:Takva) <2006/トルコ> ★★★★

takva.jpg
Takva/A Man's Fear of God
2006/96min/トルコ
製作:ファティ・アキン
監督:Özer Kiziltan(映画監督デビュー作)
脚本:Onder Cakar
出演:Erkan Can、Meray Ülgen、グヴェン・キラック、Öznur Kula、Erman Saban、Settar Tanriögen
IMDb評価:7.4/10


宗教度 ★★★★★
哲学度 ★★
民族度 ★★★
普遍度 なし


内向的な独身中年男性ハレムはアパートで独り暮らしをしている。いとこの誘いである集会に参加したところ、信仰心のあつさや世俗的なことへの無関心さが認められ、教団の長シャイフの元で働くことになり、家賃集金の仕事を任されることとなった。ところがハレムは、いつしか見知らぬ若い女性との性行為を夢に見るようになる。なぜこんな夢を見るのか、女性は誰なのか自分でもわからない。お祈りが足りないのではないかと考え、より一層お祈りに精を出すが報われない。そして、ハレムのお金に対する姿勢が変化し始め、夢の内容もエスカレートしていく…。

takva2.jpg監督はテレビで活躍されている方で、映画監督は本作がデビュー作となる。「愛より強く」のファティ・アキンが製作に携わっている。出演者は、トルコ映画を多く観ている人には豪華と思える顔ぶればかりだったが、自身出演作が日本で公開しているのはグヴェン・キラックの「愛より強く」のみという有り様。いかにトルコ映画がマイナーかが窺い知れる。

朝起きたらまず神に祈りを捧げ、質素で規則正しい生活をする日常生活が映し出される。主人公ハレムは世俗的なことには全く関心を持たず、みなのお手本となるような敬虔な生活を送っている。しかし、そんなハレムも欲に目が眩み、ジレンマに悩み苦しみとことん追い込まれていく様を描いた作品である。いくら信仰心が強くても生きている限り人間なら欲はあるだろうに、イスラムの人たちは欲をどう制御しているのかというのが、私の長年の疑問だったが、本作はまさに私が知りたかった疑問そのものだった。

タイトル“Takva”とはアラーの神への畏れや、畏れによって罪から逃れることなどを意味するという。
宗教を題材にした作品でも主人公が家でお祈りするシーンはあっても、礼拝でのお祈りシーンをまず見ることはあまりない。礼拝でのお祈りのシーンは本作の見所の一つでもある。何をしているのか全くわからなくても延々と流れる集団での礼拝のシーンは圧巻。咳一つせず真剣に見入ってしまった。

takva1.jpg以前、他の記事で夢占いのことを書いたことがあるが、夢は自身が気付かない“願望”を反映していることがあるという。ダイエットをしている人は日ごろ我慢しているケーキが夢に出てきたり。ハレムが見る夢は初めは若い女性とのセックスだけだったが、いつしかドル札が登場し、ドル札のシャワーを浴びながらセックスをするという自身の日頃の敬虔な生活からは想像もつかない内容。生涯独身であるハレムはおそらく今まで女性経験はない。生活も質素。ごく普通の生活ができれば満足といった風貌を見せつつ、心では密かに“願望”を抱えていたということだろうか。

たとえ夢だとしても、ドル札のシャワーを浴びながら若い女性とのセックスはあまりにも衝撃。一体夢は何なのか。自分はどうなってしまったか。この先どうすればいいのか。罪から逃れることはできるのか。本人にも真相はよくわかっていない。敬虔だったからこそ悩まされ、自身では解決できない問題に直面することになる。教団からの信頼も厚く、事業も任されるようになるが、その後、金に目が眩み売上の一部を着服までしてしまうのである。その一度の着服(2万ドル)を隠すため、更に罪を重ねるか…それとも計算ミスをしていたと謝ってしまうか…

本国では性的な夢が波紋を呼んだそうだが、問題なく国内でも上映され、大ヒットしたというから驚き。よく検閲に通ったものだと関心したのだが、宗教に悩んでも解決してくれるのも宗教というメッセージが込められているのが起因しているのだろう。
欲望の波に飲み込まれても決して流されることなく岸に戻ってこようとする姿は人間が試練を乗り越える姿でもある。欲を満たすことばかりが幸せだとは限らない。信仰問わず、資本主義者たちにもどこか通じる問題定義が感じられる。

<鑑賞> 英語字幕 2011/12/7


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(未) Innocence <1997/トルコ> ★★★

masumi.jpg
Masumiyet
1997/110min/トルコ
ドラマ
監督:ゼキ・デミルクブズ(Zeki Demirkubuz)(長編監督2作目)
出演:グヴェン・キラック(Güven Kiraç)、Haluk Bilginer、Derya Alabora
IMDb評価:8.3/10



哲学度 ★★★
社会度 ★
民族度 ★★★
余韻度 ★★
     
 

ユスフは姉の不倫相手を殺した罪で10年を刑務所で過ごし、刑期を終えようとしていたが、服役中、巨大地震に見舞われ、家族も家も失ってしまっていた。刑期を終えても行き場のないユスフは、刑期を伸ばしてくれと頼むが却下されてしまう。仕方なく、姉の住む町へと向かう。しかし、ユスフのことを許していない姉は顔すら合わせようとしない。いたたまれなくなったユスフは安い宿を住処とすることにした…。

masumi1.jpg監督は、「群れ」等で知られるゼキ・オクテン監督の助監督を経て、本作が長編2作目となる。。4作目「Fate」と5作目「The Confession」の2作品が2002年のカンヌ国際映画祭ある視点部門に同時出品されたこともあり、カンヌでも異例の扱いを受けている。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督と共に、現代のイランを代表する映画監督であるが、日本では映画祭のみの上映に留まっているようだ。日本での劇場公開作品はなく、ソフト化されている作品も、CS等で放送されたこともない模様。

人間の絶望と孤独を描いた傑作。噂通りの作品だった。主人公は殺人罪を犯してはいるが、姉思いが強いゆえの出来事であった。心優しく内向的なキャラクターであり、困っている人には手を差し伸べずにはいられない。宿で一人淋しくテレビを見ていた少女にも優しく接する。その少女が風邪を引き看病をしたことで仲良くなった父親は、妻が娼婦ということで嫉妬心を燃やしており、ユセフは良き話し相手になってあげる。更に少女は聾唖障害を持ち、喉を切り声を失った姉と重ね合わせ、やはり放ってはおけない。

ユセフの周りは社会のどん底を這いずり回るように生きる人たちばかりで、警察沙汰になる者、希望を失い自殺する者、夜逃げする者といった人たちばかり。純粋なゆえに貧乏くじをを引いてしまうユセフは、いつも誰かの尻拭いをさせられる運命にある。常に絶望の淵に立たされているユセフだが、それでも前へ進もうとするユセフに感銘を受ける。

<鑑賞> 英語字幕 2011/10/19
[サイト内タグ検索] 日本未公開 グヴェン・キラック
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愛より強く <2004/独=トルコ> ★★★★

head-on.jpg



Gegen die Wand/Head-On/愛より強く
2004/121min/ドイツ=トルコ
監督:ファティ・アキンFatih Akin
出演:ビロル・ユーネルBirol Ünel、シベル・ケキリSibel Kekilli、グヴェン・キラック
受賞:2004 ベルリン国際映画祭 金熊賞他、22受賞、11ノミネート
言語:ドイツ、トルコ、英語
IMDb評価:8.0/10

<あらすじ>
愛する妻を失った40歳のジャイト(ビロル・ユーネル)は、人生に絶望して自殺を図るが未遂に終り、一層の苦悩を背負い込む。若くて美しいトルコ系ドイツ人女性シベル(シベル・ケキリ)は、保守的なイスラム教徒の家族から逃れたい一心で自殺未遂を図る。精神科のクリニックに入院したシベルは、家族から自由になるには結婚しか道はないと、クリニックで出会った同じトルコ系ドイツ人のジャイトに偽装結婚を願い出る。ジャイトは渋々ながらも、彼女を救うためならと、その申し出を受け入れる。こうして2人は、同じアパートをシェアして愛のない偽りの結婚生活をスタートさせるのだが…。(allcinema)

<レビュー>
本作はキム・ギドク監督「サマリア」をおさえ、ベルリン国際映画祭において金熊賞を受賞した作品。
トルコ系ドイツ人監督によるトルコ系ドイツ人労働社階級カップルのお話。

「壁に向かって」という原題がこの作品にぴったりだと思うほど、「壁」がよく出てくる。
ジャイトにとっての壁は妻との死別。壁に衝突事故を起こし自殺を図ってもいる。壁にぶつかっては自身の存在意義すら自問自答する日々。生きる意味をも見失っていた。
シベルにとっての壁は厳格なイスラム教徒の家庭。復建制度的な家庭環境であった。イスラム教と父が壁になっていた。たとえ偽装結婚だとしてもトルコ系の男性と結婚し、父親から逃げたかった。それが全ての悲劇の連続の始まりだったのだ。
kabe2.jpgkabe3.jpg

舞台はドイツのハンブルグ。ドラッグ、セックス、アルコールそしてパンクミュージックに溢れる自由な街だ。そんな街で始まる愛のない2人の共同生活はドラッグまみれで、お互い自由にやりたい放題。シベルはバーにいっては夜の相手を探す毎日。ジャイトはそんな妻の行動を気にしながらも気づかない素振りを見せる。妻の遊び相手から、「お前はほんとに亭主か?俺はトルコ人とやれればいい」と言われ、殴ってしまう。皮肉にもこの事件がきっかけでお互いの愛にやっと気付き始めたのだ。

自身の行き場を見失っていた2人にとっての偽装結婚は何を意味したのか?それは、未来への希望だったはず。抑圧からの解放、刺激への渇望、心の葛藤、真実の愛、移民者の生活環境。。。2人一緒なら壁に立ち向かえるはずだったのに、結婚が招いてしまった悲劇と共に変化をみせる心情が激しくて切なく、歯がゆい。観賞後「愛より強く」という邦題の意味を考えてみると、愛だけでは罷り通れない現実の厳しさをひしひしと感じた。でも、この間違った結婚は人生再生への第一歩となったことを証明する形でのエンディングに希望の光も見えた。
kabe.jpg
ドイツを象徴するかのようにパンクを愛する2人だが、劇中、イスタンブールを背景に演奏されるトルコ民謡が印象的だった。ドイツに移民しても心はトルコ人であること。こんなことが移民へのメッセージとして込められているような気がした。ドイツ映画というよりトルコの文化が濃く感じられる作品だった。

<鑑賞> 2010/5/24 英語字幕
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